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房一は、行儀よくまだ冠を頭にのつけたまゝの小谷と練吉と並んで板切れの上に坐つていた。
と、父親の顎のあたりに又目をつけた。
で、この二人の間に交されたとんちんかんな立話は終りを告げた。
「さうですが、それはさうにちがひないが――」
その中を、子供達はまだ朝飯がすまないうちから通りへ出て、軒から軒へ筋交すじかひに張りわたされた小旗の下を駆けまはり、叫び声を上げ、蝋燭に火の入らない日の丸提灯が伸び切らないで尻を持ち上げたまゝぶら下つているのを眺め、家ごとに定紋入りの大提灯が板屋根のついた台と共に立てられ、鳳鳳のついた万歳旛ばんざいばたとがずらりと列をなして並んだ様を片目をつぶつてどこまでつゞいているかすかし見たり、一々数をかぞへていたりしていた。そして、犬までが子供達のさわぎに釣られて走り、きよときよとし、又走り出していた。
「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」
「さうですつてね」
鬼倉は低い声で、はじめてぢつと相手を見た。が、それつきりだつた。動きもしない。徳次は何故ともなく一寸ひるんだ。が、又、
「ほう、さうか。それはちつとも知らなかつた」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。
「うん、ドイツ兵の捕虜だ」
「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」
その住居の端々はしばしにまで行きわたつている潔癖さは、同時に大石正文夫妻の年来の好み、その生活の信条といつた風なものをも漠然と現はしていた。