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    それは直造が案内状を出す間際になつて心づき、入念に考へたあげくに呼ぶことにした高間房一だつた。

    「フム」

    「さう、知つてる、知つてる」

    が、それは徳次であつた。

    「ちつとも知りませんでしたよ」

    そして、徹夜の仕事を連続していると、視神経の疲れが何よりの悪刺戟になることがのみこめてくる。もっとも、私は強度の近視のところへ、遠視が加わったから、メガネをかけても外してもグアイが悪いのである。それがメガネのツルを支えている鼻梁の疲れを代表者として頭の廻転に鈍痛を加えてくるのである。

    「たゞし、預かるだけだよ。この分が残つている間はいくら後から来ても貰はんよ。いゝかね」

    盛子は妊娠していた。

    ――彼は医者である。免状もある。開業もした。患者もどうにかつきはじめた。職業的には立派に医者としての条件を具へつゝある。だが、河原町ではそんなことは通用しないのだ。何か別のものが、職業上の条件以上のものがここでは必要だつた。

    「やつは、わつしの土方家業がえらい嫌ひでしてな」と、彼は云つた。

    又とぎれた。

    「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」

    「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」

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