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「さうだ、鍵屋の法事へ行くんでね。さつきは、君にさう云ふのを忘れていたが――まあ、上りたまへ」
そして、こんなにはつきりした明るさの中で、もう十分に伸びつくした草地だの山地の樹木は、やたらにもくもくし、ぢつと息をつめているやうであつた。それは全体に黒つぽい様子をしていた。そのいくらか濁つた、一杯に成長し切つたことを示す黒味の中には、何かしらすぐ傍までやつて来ている九月の爽やかさを感じさせるものがあつた。
「それから、あれだが、今までよう訊かなんだが、――あれは、どうしたもんかの、大石さんの方は?」
「なに?」
「ひどい傷だねえ!」
「玄関の手入れをどうしようかと云ふのですよ」
徳次は慌てた。
徳次は明かに房一にくれようと思つていたらしかつた。で、間が悪さうにそこに立ちはだかつたまゝ、あのきよろりとした目でしきりに練吉と房一を見くらべていた。
房一は永い間診察した。ひどい貧血症、食慾のないこと、動悸が打つ、野良仕事はもう三四ヶ月前からできないでいる、――
――「やあ、おいでなさい。わたし相沢です」
練吉は軽く頭を下げながら、相手の房一がいきなり直立不動のやうに足をそろへたのを見た。
「あゝ、えらかつたなあ」
「ですが、一体財産譲渡つて云ふのはいつのことなんです、大分前ぢやないですか」